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BLUE ODYSSEY

BLUE ODYSSEY

「第3の性別」 


「第3の性別」 [act.1]


 ある日、唐突に、人類には「第3の性別」が存在するという研究発表がなされた。
それは「男性」「女性」の他に「もう1つ別の性別」が存在するというものだった。
このニュースは世界中を震撼させた。






 その事実が発表された時、実はすでに”第3の性別”はかなりの人口に達していた。
今まではその”第3の性別”の者達は、自分達が”病気に侵されている”と勘違いしていた。
なぜなら彼らを診察した医師達も、それは未知の病気か何かだと思って、その人達にそう告げていたからだ。
しかしその”第3の性別”の者達はいたって健康で、通常の「男性」「女性」とまったく同様の病気にかかった時以外は、これと言った固有の症状は出なかった。
そこで医師団と研究団体は、ついにこれを”病気”ではなく、新たな「性別」であると発表した。





 では「第3の性別」とは具体的にどんなものなのか?
分類的には「男性」と「女性」の中間、いや、むしろ”女性寄り”だった。
外見は「女性」に近いかほぼ同じで、美しい容姿を持つ者が多かった。しかし、そんな中にも少し男性的な力強さのテイストが含まれる。
顔立ちは柔らかなラインと通った鼻筋、くっきりとした目を持つ。女性の瞳よりは印象深い瞳になっていた。
女性とそっくりか、美少年と言った感じ。髪型しだいで男性・女性のどちらにも見えた。

性格も穏やかだが、女性よりは少し前向きな性格。社会的進出度も女性よりは多い。
声も女性同様比較的綺麗。
さらに子供を産む事も可能だった。
それでいて腕力は女性より強かった。

研究グループはこの第3の性別に『エルフ』という名前を付けた。
これは今日のファンタジー小説やゲーム・アニメ等でよく使われる架空の人種の名称だった。
それは「人間の姿に似ていながら、その容姿がとても美しい種族」として描かれていた。
「エルフ」とはこの「美しい容姿」の部分が被るので、そこから引用したものである。




 「男性」も「女性」も、今まで第3の性別を持つ者がいたなんて、これまでまったく気が付かなかった。
もともとエルフは女性に近い美しさを持つので、女性の服を着て街を出歩く事が多かった。
社会に出ても、オフィスでも、たいていは女性の服を着ていた。さらに化粧もしていた。
エルフは女性同様、清潔で綺麗好き、さらにメイク・ファッションにも興味があった。

 しかし『第3の性別』の発表がされてからは、女性は”他の女性”を疑い始めた。
少しボーイッシュな容姿の者なら「本当の性別はエルフではないか?」と。
だがこの頃は自分自身を「エルフ」だと公表する者も出始めた。




 エルフは大抵女性物の服を買う。
本来14~26歳ぐらいまでの「本物の女性」は、たいてい普段着は簡単な服装。例えばTシャツにジーパンを着て、男性とさほど変わらない。
しかしそれ以外の場合では”よそ行き・デート用”等には女性向けの服を買う。
この女性向けの服をエルフが買うのが、「本物の女性」には我慢ならなかった。
ほどなくして本物の女性達から反対運動が起こった。




「エルフは『エルフ専用の服』を着る事!」




「女性も男性用の物かそれに近いデザインの物を着る事もあるのに、いまさらそんな事を言わなくても……。」と世の男性達は思った。
しかしエルフの姿は美しく、女性物の服を着ると本物の女性の美しさに迫った。
いや、少し男性的なくっきりとした美しさを持つエルフの容姿は、「見慣れた女性の美しさ」よりもはるかに男性の目を惹くようになっていた。
今やエルフはモテモテだった。
そこで女性達がこれに腹を立てて、「エルフは『エルフ専用の服』を着る事」と言い始めたわけである。




 最初に女性達の槍玉に上がって困ったのは、百貨店に代表される婦人服・女性向けの服等の”レディースウエア”の売り場。
女性達から、




「女性用とエルフ用の衣類売り場を別けよ」と言われた。




その理由は「エルフは”女性では無い”」からだそうだ。
エルフはプロポーションも細身で、女性との違いはやや肩幅が広く、腕や足も少しがっしりしている。でも、エルフは美しさを求める性別であるようで、うまく洋服を着こなせばたいてい女性と見分けが付かなくなった。
それでも「”エルフ”の性別の者は”女性”の洋服売り場に来るな!」という事を言われた。

売り場をこのように区切る事は、売る方にとっては辛いものがあった。
さらに…………、




「百貨店等の店舗は、エルフ専用トイレを設置すべし」




と、女性達に言われた。実はこれまでエルフは”女性用の化粧室”を使っていた。
エルフは綺麗好きだし、化粧もするのでやはり、それが落ち着いて出来る”女性用”を使っていた。
女性用はたいてい広々としていて、大きな洗面台と鏡があった。
最近男性用も綺麗になってきたとは言え、やはり女性用と比べるとどうしても見劣りがした。
だからエルフは好んで女性用を使っていた。

百貨店を始めとする店舗側は、もう”1つ化粧室を設置する”為の費用負担に困っていた。
だが、エルフは女性用の服や化粧品をよく購入するので、エルフを客層から締め出すわけにはいかなかった。それに女性からの投書やメールが殺到していたので、百貨店側はやむなく「エルフ専用化粧室」を作った。







「第3の性別」 [act.2]


 一般の会社等では、”女性社員”より”エルフ社員”の方が男性にモテる事が多くなってきた。
職場では、頭の回転も速いし、強さがあった。
それに女性のようにヒステリックなる部分や井戸端会議に夢中になりすぎる事も無かった。
でも、女性並のしおらしさやかわいらしさも兼ね備えていた。
それで女性はもはや「かわいい・きれい」だけではもてはやされなくなっていた。

これに女性は腹を立てた。
これまで会社のコンパや宴会でちやほやされていたのが、急に隅に置いていかれた感じになった。
「若い女性」と言えばそれだけでモテていたのが、最近は話術でもない限り相手にされない。

職場でも、これまでは「女性なので、”なよなよ”してても許される」場面が多かった。
しかし、エルフは男性と同様に働く意識が強かったので、いざエルフがそのビジネス世界へ進出すると、女性の”なよなよ”はもはや許されなくなってきた。







 テレビの世界では一時期「女子アナ」が人気だった。
各局はこぞって美しい女性アナウンサーを起用したものだが、
今では「エルアナ」つまり”エルフのアナウンサー”が異常人気となった。
本物の女性に比べ、はっきりと喋るからだ。
とにかくエルフをアナウンサーとして立てれば、番組の視聴率はグンと上がった。そのあおりをくって「女子アナ」の多くは降板させられた。
またバラエティー番組などで「綺麗だから」という理由で起用されていた女性出演者達はほとんど仕事が来なくなった。今はエルフの出演者の方が人気だからだ。それはやはり女性よりは話の幅が広いから。

またCMからは女性モデルの起用が少し減ってきた。化粧品のCMにもエルフのモデルが使われ始めた。
エルフは少し男性的なプロポーションだが、そのせいで身長は平均して女性より高めだった。
そこで、ファッションショーのモデル等にもエルフが起用された。
エルフは力強い美しさで、コーディネーター・カメラマン・デザイナー達からも人気だった。







 「女性」達は怒った。だんだん怒りが収まらなくなってきた。
そんなある日、鉄道の「女性専用車両」にエルフが乗っていたのがテレビで大きく取り上げられて問題になった。
エルフはおとなしい性格なので、女性専用車両の方に乗りたかった。
この第3の性別が世間に発表されるまで、ずっとそこに乗っていた。
エルフが乗ってもこれまで一件も被害も苦情も出なかった。しかし、ここに来て、




「エルフは”女性”では無いので”女性専用車両”に乗ってはいけない」




と「女性」達から言われた。
エルフの性格はおとなしいが、これを聞いてさすがに腹を立てた。
しかし、このような小さい事にいちいち反論しても、ある意味時間の無駄のような気がしたので、裁判などは起こさなかった。







 最近の「本物の女性」にしてみれば、急に人口比率が

『男性1:女性2(エルフ含む)』

となってしまったような感があり、”結婚”に関してすごく不安になった。
将来的に結婚できるのは2人に1人となるような気がしていた。
エルフは女性とも結婚できた。しかし実際は

『”積極性のある男性”がエルフをゲットする』

パターンが多く、女性の中には「売れ残り組」なんて言葉も再びはやり始めた。
とにかく女性はエルフを腹の底では「憎み始めた」のである。



 さらに女性は”女性としての特徴”も失いつつあった。
エルフは子供を産めた。
余談だが、たいていはそこから”エルフ”しか産まれてこない。稀に結婚相手と同性の子供が産まれるが、”エルフが産むのはエルフの子”と決まっていた。
つまり男性・女性を多く産めるのはやはり「女性」だった。そういった特徴は残っていたのだが……、
しかし、エルフは子育てもよくしたのだ。
そこで「女性のみ子供を生める」「母になる」と言った事はだんだん言われなくなってきた。







 日が経つにつれ、女性達はエルフに対して強い嫉妬を抱き始めた。
「エルフイジメ」みたいな言葉が流行語大賞になり、社会においてエルフへのいやがらせは大きな問題となってきた。
それを受けたエルフが、女性を相手に訴訟を起こす事例も出始めた。

その時に「男性」がエルフ側を養護する場面が増えていた。
これまでの「男性は女性にやさしくし、女性を守る」というようなイメージが段々崩れて来て、
今では”弱い者・助けがいる者”の対象は女性ではなく「エルフ」に移っていた。







「第3の性別」 [act.3]


 女性は以前のように男性から”守られなくなった”。
それを受けて、世界中で極端な思想によるデモが行われた。それは女性たちがエルフに対して起こしたデモ行動だった。
そういったデモが、やがて過激なデモへと変貌し………。


 ある日、ある国の一部の女性達が武器を取って、街からエルフを駆逐した。
どこにもぶつけられない怒りがついに、武器を取るという形で現れたのだ。
それは虚しい戦争の始まりだった。
世間の認識では、最初この女性達は不思議な宗教集団だろうと思われた。
しかし、女性達の憎しみは皆が思っているより根強かった。
この戦いで、罪も無きエルフが大勢巻き込まれた事から、これが発端となって世界中のいたるところで戦争が勃発した。

武器を取った者達の多くは『独身女性』と『独身男性』だった。
女性は”エルフ”を狙って攻撃し、男性は”その攻撃からエルフを守る”ようにしていた。
それが女性兵士達の反感をさらに買って、「男性も攻撃対象にする」というさらなる戦闘行為を生む結果となった。
今や「女性」と「男性」は、2つに分裂して戦争をしている様相になった。
既に夫婦となっていた者はその戦火の渦から逃げた。
「既に夫婦となっていたが、実は不仲だった者」はそれどれ男と女の陣営に別れて戦闘に加わった。


世界中に戦火が飛び火した。
しかし、エルフは中立の立場を取り、戦闘にはあまり参加しなかった。
それはもともと女性みたいな温和な性格と、「女性に戦争を挑む」ほどの理由がなかったからだ。
エルフは女性にはよく嫌がらせを受けていたが、それは裁判で済ます事ができた。
今戦っている女性のように、「結婚相手や地位までも奪われた」と思う事もないからである。

しかし、男性もエルフを守るため、執拗に女性軍を攻撃した。それはまるで

「エルフがいればもう女性はいらない」

とでも言っているような感じにさえ受け止められた。
その為、女性軍からの攻撃は日に日に激しさを増した。
そして、戦争は終わりの無い泥沼の様相を見せ始めた。






 ある日、エルフ達は独自に「男性軍」「女性軍」の双方に向かって声明を発表した。

「聞いてください。
自分達は貴方を不仲にするために産まれてきたんじゃないんです。
それは貴方がたの勘違いです。
私達は単なる”第3の性別”に過ぎないのですから。
お互い仲良くしてください。
時が流れれば、男性・女性・エルフの3つの性は”もともと存在していたもの”として当たり前のように受け止められる日が来るでしょう……。」






 そう、過去には「性別は2つであるのが当たり前」と思っていたのだが、
今後は「3つあるのが当たり前」と思う日が来るのである。










THE END



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 深く考えずに読み物としてお楽しみください。
あまり女性がどうのこうのといった意味で書いたのではありません。



でも、女性には女性の特徴(美しさやしおらしさ)がありますから、性別が2つしかないのは、それが際立って良いのかも。
この小説のように3つもあれば、今まで特徴と思っていたものも薄れるかも知れません。

これはそんな発想から生まれたお話です。





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